本プログラムでは、ライフワークとして工芸・民藝を研究する菊池裕子氏を招き、シアスター・ゲイツが実践する「アフロ民藝」を、グローバルなアートの文脈や美術・工芸史の視点から批評的に読み解きます。
ともすれば唐突な印象を与えるシアスター・ゲイツの「アフロ民藝」という概念と実践について現代社会においてどのような意義をもつのか、そして視覚文化史の批評の潮流の中でどのように発展してきた問題意識と実践であるのかについて俯瞰する。「工芸」という近代の領域へ懐疑をもつ意識は日本でも浸透しつつあるが、そのグローバルな脱近代・脱植民の課題との直接的な関係性はとらえられていない傾向にある。昨今のヴェネチアビエンナーレ、ドキュメンタ等での「工芸」への注目とも関連させながら、ゲイツがはたらきかける「工芸」の戦略について論じる。また、「アフロ民藝」を日本ではどう受け止めるべきなのかについても言及する。「民芸」という概念をつくった民芸運動について自画自賛する機会ではなく、戦後80年になろうとする日本において未だ遅々として進まず忘却の淵へおいやられていく脱植民の問題とブラックの問題をどのように重ね合わせていけるかを民芸研究者としての自身のライフワークからトランスナショナルな民芸運動研究の様相と実践の意義についても語る。
菊池裕子